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大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)6014号 判決 1990年7月10日

大阪市東成区大今里南二丁目一五番一八号

原告

大内芳夫

右訴訟代理人弁護士

山上和則

右訴訟復代理人弁護士

岩﨑任史

右輔佐人弁理士

小谷照海

福岡県粕屋郡須恵町大字上須恵字桜原一四九五番地四

被告

福友産業株式会社

右代表者代表取締役

竹山雅巳

福岡県粕屋郡須恵町大字須恵三七七番地の一三九

被告

竹山雅巳

右両名訴訟代理人弁護士

増岡章三

對﨑俊一

竹中良治

増岡研介

右輔佐人弁理士

早川政名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  被告福友産業株式会社は、別紙イ号方法目録記載の方法を使用して三角袋を製造し、譲渡してはならない。

二  被告福友産業株式会社は、別紙イ号方法目録記載の方法を使用して製造されたその所有に係る三角袋を廃棄せよ。

三  被告両名は、各自、原告に対し、金三〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年八月四日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、被告会社において別紙イ号方法目録記載の方法(以下、その方法を「イ号方法」といい、右方法により製造された製品を「イ号物件」という。)を用いて三角袋を業として製造、販売しているか否か、具体的には、原告がその証拠として提出した三角袋(検甲四、五、同一〇の一~三、同一一、同二四)がイ号方法により製造されたものといえるかどうかが、主な争点になつた事案である。

第三  当裁判所の判断

一  原告の権利(争いがない)

原告は、左記特許権を有している。

発明の名称 三角袋の製袋方法並にその装置

出願日 昭和五〇年五月二九日

出願番号 特願昭五〇-六五一三六号

出願公告日 昭和五三年三月二七日

出願公告番号 特公昭五三-八二六三号

登録日 昭和五三年一〇月一七日

特許番号 第九三〇四六一号

特許請求の範囲

巻軸より解き出される紙、合成樹脂フイルム等二枚の移送原紙の内、幅広い下側原紙の中間にその進行方向に対し袋裁断長に合わせて斜めに<省略>形の糊付条線を順次断続的に附して上側原紙と接着重合し、下側原紙の両端部に沿うて直線状に糊付条線を附すと共に之を内側に折曲して上側原紙の両端部上に糊付接着し、次いで螺旋刃の回転により上記<省略>形糊付接着部の斜線部より中割して左右に二分し、更に之を進行方向に対し斜設した斜面カツターにより<省略>形接着部の鈎形部に沿うて間欠的に斜めに裁断して一度に左右対称形の三角袋を二枚づつ順次連続的に成形する事を特徴とした三角袋の製袋方法

二  本件発明の構成要件と作用効果

1  本件発明の構成要件は、左記のとおり分説することができる。

(一) 巻軸より解き出される紙、合成樹脂フイルム等二枚の移送原紙を用い、

(二) 二枚の原紙のうち幅広い下側原紙の中間にその進行方向に対し袋裁断長に合わせて斜めに<省略>形の糊付条線を順次断続的に付して上側原紙と接着重合し、

(三) 下側原紙の両端部に沿つて直線状に糊付条線を付すと共にこれを内側に折曲して上側原紙の両端部上に糊付接着し、

(四) 次いで螺旋刃の回転により前記<省略>形糊付接着部の斜線部より中割りして左右に二分し、

(五) さらにこれを進行方向に対し斜設した斜面カツターにより<省略>形接着部の鈎形部に沿つて間欠的に斜めに裁断して一度に左右対称形の三角袋を二枚ずつ順次連続的に成形する、

(六) 三角袋の製袋方法であること。

2  本件公報に記載された本件発明の作用効果は左記のとおりである(争いがない)。

(一) ぶどう等の包装に用いられる左右対称形の三角袋を、一度に二枚ずつ連続的にかつ自動的に製造できるので、高能率で大量生産が可能となり、コストも著しく低下する。

(二) 原紙の紙幅と原紙の進行方向に対する糊付条線の角度、及び上下一対の螺旋刃による斜面中割りカツターの傾斜度をそれぞれ加減することにより大小様々の三角袋や角度の異なる変形袋を、道具を換えることなしに同一装置で極めて容易に製造しうる。

(三) 本件特許方法により得られた袋は三角形状に構成されているので、ぶどう等の包装に際して紙袋に余分の空白ができず、確実にかつ安定の良いきれいな包装ができる。

三  被告会社の製造・販売行為(争いがない)

被告会社は、ぶどう等の果物用包装袋として、三角袋を業として製造し、販売している。

四  原告が主張する被告会社の製造方法

原告が主張する被告会社の製造方法は別紙イ号方法目録記載のとおりである。

五  イ号方法の技術的構成と作用効果

1  イ号方法の構成を、本件発明の構成要件と対比するのに必要な限度で分説すると、左記のとおり分説することができる。

(一) ロールより解き出される上側原紙として紙を、下側原紙として合成樹脂フイルムをそれぞれ用い、

(二) 幅広い下側原紙の中間にその進行方向に対し袋裁断長に合わせて斜めに<省略>形の糊付条線を順次断続的に付して上側原紙と接着重合し、

(三) 下側原紙の両端部に沿つて連続して直線状に糊付条線を付すと共に、これを内側に折り曲げて上側原紙の両端部上に糊付接着し、

(四) 次いで螺旋刃の回転により<省略>形糊付接着部の斜線部より中割りして左右に二分し、

(五) さらにこれを進行方向に対し斜設した斜面カツターにより<省略>形接着部の鈎形部に沿つて間欠的に斜めに裁断して一度に左右対称形の三角袋を二枚ずつ順次連続的に成形する、

(六) 三角袋の製袋方法であること。

2  原告が主張するイ号方法の作用効果は、左記のとおりである。

(一) 左右対称形の三角袋を一度に二枚ずつ連続的に製造できるので、高能率で大量生産ができ、コストが低減する。

(二) 原紙の幅、下側原紙への糊付条線の角度、斜面中割りカツターの傾斜度等の操作条件をかえることにより、特別の道具を使用することなく、いろいろな形状の三角袋を製造することができる。

(三) 袋は三角形状を呈しているので、ぶどう等の包装には最適である。

六  イ号方法と本件発明の対比

1  イ号方法の各構成と本件発明の構成要件との対比

(一) イ号方法の構成(一)ないし(六)を、本件発明の構成要件(一)ないし(六)と対比してみると、イ号方法の構成(一)ないし(六)は、それぞれ対応する本件発明の構成要件(一)ないし(六)を充足するということができる。

(二) もつとも、イ号方法の構成(二)、(四)、(五)の<省略>形の糊付条線と、本件発明の構成要件(二)、(四)、(五)の<省略>形の糊付条線は、その形状を異にしている。しかしながら、本件公報(甲一)によれば、本件発明の場合、糊付条線を<省略>形としたのは、左右対称形の三角袋を一度に二枚ずつ連続的に製造するためであると認められるところ、イ号方法における<省略>形もこれと同様の目的のために定められた形状であることは、その構成からみて明らかであり、「発明の詳細な説明」をみても、本件発明にいう<省略>形を厳密な意味での<省略>形に限定すべき理由は認められない。イ号方法の<省略>形は、本件発明にいう<省略>形の範囲に入り、イ号方法の構成(二)、(四)、(五)は、本件発明の構成要件(二)、(四)、(五)を充足するというのが相当である。

2  イ号方法と本件発明の作用効果の対比

イ号方法の作用効果(一)ないし(三)は、本件発明の作用効果(一)ないし(三)と同一であるということができる。

七  イ号方法による三角袋の製造・販売

1  原告は、被告会社がイ号方法によつて三角袋を製造、販売していることを示す根拠として、次のように主張する。

(一) イ号方法で製造された三角袋すなわちイ号物件は、前記構成から明らかなように、下側原紙として使用される合成樹脂フイルムの両端部に沿つて連続した直線状の糊付条線を付し、これを内側に折り曲げて上側原紙の両端部に糊付接着するものであるから、右折り曲げ部は、下側原紙の合成樹脂フイルムが襞を有しないフラツトな構成(以下「フラツト」という。)になり、右折り曲げ部の糊付条線は、三角袋の開口部端から頂部端まで直線状に連続する(<省略>。点線は袋体の外形を示し、上側が開口部、下側は頂部である。実線は、糊付条線を示し、右側が折り曲げ部の糊付条線である.以下、同じ。)。

(二) しかるところ、被告会社が製造、販売した左記(1)ないし(4)の三角袋は、いずれも折り曲げ部がフラツトで、折り曲げ部の糊付条線は開口部端から頂部端まで直線状に連続している。

(1) 原告が昭和六一年一〇月七日青森県ブドウ生産貯蔵組合より入手した三角袋(検甲四、五。以下「被告物件(1)」という。)。

(2) 原告が昭和六三年四月一二日福岡県朝倉郡浮羽農業協同組合より入手した三角袋(検甲一〇の一~三。以下「被告物件(2)」という。)。

(3) 原告が平成元年二月一四日石井果樹園石井栄一から入手した段ボール箱約半分(一六三四枚)の三角袋(検甲一一.以下「被告物件(3)」という。)。

(4) 原告が平成元年五月一九日石井果樹園石井栄一から入手した未開封の段ボール箱(三〇〇〇枚)入りの三角袋(検甲二四.以下「被告物件(4)」という。)。

(三) したがつて、被告会社がイ号方法によつて、三角袋を製造、販売していることは明らかである。

2  これに対する被告らの主張は、次のとおりである。

(一) 被告会社は、イ号方法を用いて三角袋を製造、販売したことはない。

(二) 被告会社は、三角袋の製造を開始した昭和五九年当時は、別紙ハ号方法目録記載の方法(以下、その方法を「ハ号方法」といい、その製品を「ハ号物件」という。)を用いて、フラツトな三角袋を製造していたが、昭和六〇年一月以降は、下側原紙の両端部を乙状に折り返して襞(以下「ガセツト」という。)を形成し、右ガセツトの存在により、開きやすく果実を収納しやすく、かつ、収納入口を閉じやすくした三角袋を別紙ロ号方法目録記載の方法(以下、その方法を「ロ号方法」といい、その製品を「ロ号物件」という。)により、製造して、今日に至つている。

(三) ところで、ハ号物件は、前記工程から明らかなように下側原紙として使用される合成樹脂フイルム上に<省略>状の糊付条線を一定の間隔を置いて断続的に付していくものであるから、この方法によつて製造された三角袋の糊付条線は、本来、三角袋の形状に沿つたものとなり(<省略>.検甲二参照)、折り曲げ部の糊付条線が三角袋の開口部端から頂部端まで一直線に連続する(<省略>)ことはないはずのものであつた。しかし、実際には、糊付工程で糊が多目に付けられたりするので糊量を均一にするための糊ならしベラを取り付け、糊付条線をならしていたため、その時の糊の量や糊ローラーと押さえローラーの間隔の大小、あるいは糊ならしベラの押さえ過ぎ等のため、下側原紙の両側端部に付された糊付条線の切断部にまで糊がはみ出て一直線に連続しているように見える三角袋や糊付条線が二本線状に見える三角袋ができたのは事実である。しかし、その場合でも、その直線は製品によつて一様でないうえ、先細りであつたりする。本来的に連続直線上に糊付条線を設ける原告主張のイ号方法で製造された三角袋ではこのような糊付条線は生じようがなく、均一の糊付条線になるはずである。この点に注意してみれば、被告物件(1)ないし(4)が、いずれもイ号方法により製造されたものではなく、ハ号方法により製造されたものであることは明白である。現に被告物件(3)(検甲一一)の中には、糊のはみ出しがなく糊付条線が本来の形状(<省略>)のものが含まれているほか、一見、糊付条線が直線状に連続しているようにみえるが、明らかに先細りになつていて、糊のはみ出しによることが容易に判るものが数多く含まれている。また、被告物件(4)(検甲二四)の中にも、右と同様、先細りのものが、多数あり、これらの事実は、被告物件(1)ないし(4)が原告が主張するイ号方法で製造されたものでないことを如実に示している。

(四) なお、ロ号方法で製造されたロ号物件は、ガセツトの構成であり、糊付条線のはみ出しもないから、これらのものとは明らかに識別される(検甲三参照)。

3  そこで、以下、右当事者双方の主張をふまえてイ号方法による三角袋の製造・販売の有無を検討する。

(一) 本件証拠上、被告会社がイ号方法によつて三角袋を製造、販売していたことを、直接、明確にできる証拠はない。

(二) しかし、右当事者双方主張のイ号ないしハ号方法の構成ないし工程に照らすと、これにより製造された三角袋すなわちイ号ないしハ号物件は、それぞれ、本来、左記のような外観上の特徴をもつことになると認められる。

(1) イ号物件の下側原紙の折り曲げ部はフラツトで、右折り曲げ部の糊付条線は、三角袋の開口部端から頂部端まで直線状に連続する(<省略>)。

(2) ロ号物件の下側原紙の折り曲げ部はガセツトで、糊付条線は、三角袋の形状に沿つたものとなり(<省略>)、右折り曲げ部の糊付条線が三角袋の開口部端から頂部端まで直線状に連続することはない。

(3) ハ号物件の下側原紙の折り曲げ部はフラツトで、糊付条線は、三角袋の形状に沿つたものとなり(<省略>)、右折り曲げ部の糊付条線が三角袋の開口部端から頂部端まで直線状に連続することはない。

(三) しかるところ、原告は、イ号物件として被告物件(1)ないし(4)(検甲四、五、同一〇の一~三、同一一、同二四)を提出し(それらが被告製造の三角袋であることについては争いがない。)、証人高野茂は、それらの袋の下側原紙折り曲げ部の糊付条線はバームコード(別紙バームコード説明図参照)によつて付けられたものである旨証言する。

そこで、右各検甲号証によつて、これをみるに、右各物件の折り曲げ部がフラツトであることは明らかであり、右折り曲げ部の糊付条線は次のとおりと認められる。

(1) 被告物件(1)(検甲四、五)

糊付条線は二本線状になつており太さは一定していないが(接触して一本になつている箇所がある。)、開口部端から頂部端まで連続した直線となつている。ただし、開口部端及び頂部端で糊付条線は、他の箇所に比しやや細めである。

(2) 被告物件(2)(検甲一〇の一~三)

糊付条線は太い条線と細い条線の二本からなりところどころで接触しながら、一定範囲の太さを保つて、開口部端から頂部端まで連続した直線となつている。

(3) 被告物件(3)(検甲一一)

被告物件(3)一六三四枚のうち、多数は、糊付条線が開口部端から頂部端まで一定の太さで連続しているがかなりの数のものは明らかに開口部端及び頂部端において糊付条線が細めになつており、糊付条線が頂部端まで連続していないことが明らかなもの(糊付条線が<省略>状のもの)も混在している。

(4) 被告物件(4)(検甲二四)

被告物件(4)三〇〇〇枚のうちに、頂部端まで糊付条線が連続していないことが明らかなもの(糊付条線が<省略>状のもの)は、見出すことはできず、糊付条線は、すべて連続直線状である。しかしながら、かなりの数のものは明らかに頂部端で糊付条線が細めとなつている。

(四) まず、被告物件(1)(検甲四、五)、同(2)(検甲一〇の一~三)についてみるに、確かに、右各被告物件の糊付条線が開口部端から頂部端まで直線状に連続していることは、イ号物件としての特徴を示すものであるということができる。また、高野証人のいうようなバームコードにより糊付作業が行われれば、右糊付条線が二本線状になり開口部端から頂部端まで直線状に連続することはありうるこどと考えられる。

(五) しかし、そうだとしても、右高野証人のいうようなバームコードにより糊付作業が行われたとすれば、その糊付条線は、全体に一定の太さになるのが原則であると考えられるが、被告物件(1)(検甲四、五)の糊付条線が開口部端及び頂部端で他の箇所に比して細めになつているのは、何故なのかその理由は明らかでない。

またその点は別にしても、原告自らがハ号物件であるとする三角袋(検甲二。原告は、当初、右検甲二の三角袋をイ号物件として提出したが、その後、その糊付条線の状態等に照らし、これをハ号物件とした。)が存することや、証人大西俊一の証言に照らすと、被告会社がハ号方法によつて三角袋を製造していたことがあること自体は否定できない。そして、大西証人は、糊付条線の連続等に関して前記2(三)の被告らの主張に沿う趣旨の証言をするところ、糊ならしベラの使用状況の再現として提出された乙四の一~三によると、針金様の金属性の糊ならしベラにより糊付条線が引き延ばされ、糊付条線の断絶部分を連続にしていることが視認される。これによれば、右大西証人のいうように糊ならしベラの使用により糊付条線が連続することや二重線状になることはありうることと認められ、その可能性を否定することはできない。原告は、三角袋の下側原紙の合成樹脂フイルムは傷つき易く、針金でできたヘラで糊をならすことはできないと主張し、高野証人は、これに沿う趣旨の証言をする。しかし、そうしたことは、使用される合成樹脂フイルムの強度や糊ならしベラの形状、右フイルムとヘラの接近、接着状況等諸々の条件によつて左右されることであり、右乙四の一~三と対比すると、一概に右高野証人のいうようには断定できないと考えられる。

(六) 次に、被告物件(3)(検甲一一)と被告物件(4)(検甲二四)についてみるに、原告主張のイ号方法によつて製造された三角袋すなわちイ号物件であれば、前記のとおり下側原紙折り曲げ部の糊付条線は、本来、開口部端から頂部端まで常に連続するはずであり、製品により断続的になつたり開口部端あるいは頂部端においてだけ細くなるということはあり得ないはずのものである。ところが、被告物件(3)(検甲一一)や被告物件(4)(検甲二四)の中には、明らかに右糊付条線が開口部端から頂部端まで連続していないものや先細りのものが混在している。そして、右各被告物件は、いずれも箱単位で(一つの箱に一括梱包されたものとして)提出されたものであるから、特段の事情のない限り、同一機械により同一方法によつて、同時期に生産されたと推認されるものである。したがつて、もし、右各被告物件が原告主張のようにイ号方法によつて製造されたものであるとすれば、なぜ、右のような糊付条線の不連続ないし先細りのものが混在するのか疑問になるが、その理由、原因を明らかにできるだけの主張、立証はなされていない。右各被告物件をイ号方法によつて製造されたものとするには疑問があるといわざるをえない。

(七) 以上のようにみてくると、被告物件(1)ないし(4)の糊付条線の連続状況や前記高野証人の証言から、被告会社によるイ号方法の実施を肯認するのは困難であり、他にこれを認めるに足る証拠はない。もつとも被告らによる製造方法開示の経過をみると、以下の事実すなわち、被告らは、<1>まず、ロ号方法を開示し(被告ら第一準備書面・第二回口頭弁論期日)、<2>次いで、ハ号方法を開示したが(被告ら第三準備書面・第五回口頭弁論期日)、右時点では、ハ号方法における糊付手段として凹状のグラビア式糊付ローラーが開示され、その説明書きにも、グラビア式糊付ローラーであるから鮮明に糊付できる旨の記載をしており(なお、右のグラビア式糊付ローラーであるとの主張は、その後に提出された乙四の一~三、同五及び大西証人の証言に照らすと、事実に反するものと認められる。)、この時点では、糊付条線の連続の原因になる事実を一切窺わせていなかつた、<3>その後、糊付条線の連続が問題になつた当初の段階では、糊付量が安定せずに重合工程でのりがはみ出すことがあるのと言うだけであつたが(被告ら第七準備書・第一一回口頭弁論期日)、<4>その後一年以上たつた第一七回口頭弁論期日になつて、ようやくハ号方法の再現写真としての乙四の一~三を提出し、糊ならしベラの使用とこれによる糊付条線の連続を主張し始めた、という事実が認められる。右のような事実に照らすと、原告が被告らが主張するイ号方法の不実施に疑念を持ち、たやすく納得しないのも理解できないことではない。

しかし、結局は、既にみてきたとおり、イ号方法の実施を、直接、明確にできる証拠がなく、糊付条線の連続によりイ号方法の実施を窺わせる三角袋の存在も、これを推断するに十分でないとする以上、他に的確な立証のない本件においては、イ号方法実施の事実は認め難いというほかはない。

八  まとめ

以上のとおりとすると、原告の本訴請求は、その余の左記事実について判断するまでもなく、理由がないといわざるをえない。

1  原告の損害

被告会社は、遅くとも昭和六〇年三月頃から本訴が提起された昭和六〇年七月末日までの間、イ号物件を少なくとも合計二〇〇〇万円相当量製造し、これを販売して少なくとも三〇〇万円の利益を得ている。

本訴においては、右被告会社利益額をもつて原告の損害額と推定されるべきであるから、原告に生じた損害は少なくとも金三〇〇万円を下らない。

2  被告らの責任

被告竹山雅巳は、被告会社の代表取締役であるが、その職務の執行にあたり、イ号方法を使用して三角袋を製造、販売することが本件特許権を侵害するものであることを知り、または過失により知らないで、前記行為に及んだものであるから、被告竹山及び被告会社は不真正連帯の関係において原告に与えた前記損害を賠償すべき義務がある。

よつて、原告は、被告会社に対し、本件特許権に基づきイ号方法を使用した三角袋の製造、譲渡(販売)することの差止及びイ号物件の廃棄を求めると共に、被告らに対し、前記損害金三〇〇万円及びこれに対する不法行為の後であることの明らかな昭和六〇年八月四日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を不真正連帯の関係において支払うことを求める。

九  結論

以上によれば、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上野茂 裁判官長 井浩一 裁判官 森崎英二)

イ号方法目録

ロールから解き出される上側原紙として紙を、下側原紙として合成樹脂フイルムをそれぞれ用い、幅広い下側原紙の中間にその進行方向に対し袋裁断長に合わせて斜めに<省略>形の糊付条線を順次断続的に付して上側原紙と接着重合し、下側原紙の両端部に沿つて連続して直線状に糊付条線を付すと共に、これを内側に折り曲げて上側原紙の両端部上に糊付接着し、次いで螺旋刃の回転により<省略>形糊付接着部の斜線部より中割して左右に二分し、さらにこれを進行方向に対し斜説した斜面カツターにより<省略>形接着部の鈎形部に沿つて間欠的に斜めに裁断して一度に左右対称形の三角袋を二枚づつ順次連続的に成形する、三角袋の製袋方法

ロ号方法目録

ロ号方法を工程順に図面によつて整理すると左記のとおりである。

第一工程-別紙第1図面に示すように、下側原紙の両側端部を折返して、いわゆるガセツト部(乙状の襞)を形成する工程。

第二工程-別紙第2図面に示すように、ガセツト部が形成された下側原紙上に、糊付条線を形成する糊付工程。

第三工程-別紙第3図面に示すように、糊付条線が形成された下側原紙の上に、上側原紙を接着する接着工程。

第四工程-別紙第4図面に示すように、接着部のaとa'との間に、三箇所の接続部を残して切れ目を入れる中割工程。

第五工程-別紙第4図面のb部分を切断し、別紙第5図面に示すようにする裁断工程。

第1図

<省略>

第2図

<省略>

第3図

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第4図

<省略>

第5図

<省略>

ハ号方法目録

ハ号方法を工程順に図面によつて整理すると左記のとおりである。

第一工程-別紙第1図面に示すように、上側原紙より巾広の下側原紙上に、糊付条線を形成する糊付工程。

第二工程-別紙第2図面に示すように、糊付条線が形成された下側原紙の上に、上側原紙を接着する接着工程。

第三工程-別紙第3図面に示すように、下側原紙の両側を折り返して上側原紙の両側に重ね合わせて接着する折り返し接着工程。

第四工程-別紙第4図面に示すように、接着部のaとa'との間に、三箇所の接続部を残して切れ目を入れる中割工程。

第五工程-別紙第4図面のb部分を切断し、別紙第10図面に示すようにする裁断工程。

第1図

<省略>

第2図

<省略>

第3図

<省略>

第4図

<省略>

第5図

<省略>

バームコード説明図

<省略>

<19>日本国特許庁 <11>特許出願公告

特許公報 昭53-8263

<51>Int.Cl.2B 31 B 25/00 識別記号 <52>日本分類 132 B 390 庁内整理番号 6648-38 <44>公告 昭和53年(1978)3月27日

発明の数 2

<54>三角袋の製袋方法並にその装置

<21>特願 昭50-65136

<22>出願 昭50(1975)5月29日

公開 昭51-141087

<43>昭51(1976)12月4日

<72>発明者 出願人に同じ

<71>出願人 大内芳夫

大阪市東成区大今里南2の15の18

<74>代理人 弁理士 小谷照海

<57>特許請求の範囲

1 巻軸より解き出される紙、合成樹脂フイルム等2枚の移送原紙の内、幅広い下側原紙の中間にその進行方向に対し袋截断長に合わせて斜めに<省略>形の糊付条線を順次断続的に附して上側原紙と接着重合し、下側原紙の両端部に沿うて直線状に糊付条線を附すと共に之を内側に折曲して上側原紙の両端部上に糊付接着し、次いで螺旋刃の回転により上記<省略>形糊付接着部の斜線部より中割して左右に2分し、更に之を進行方向に対し斜設した斜面カツターにより<省略>形接着部の鈎形部に沿うて間欠的に斜めに截断して一度に左右対称形の三角袋を2枚づゝ順次連続的に成形する事を特徴とした三角袋の製袋方法。

2 夫々巻軸より解き出される紙、フイルム等上下2枚の移送原紙の内、幅広い下側原紙の中間に、その進行方向に対し袋截断長に応じ斜めに<省略>形糊付条線を断続的に附すべく回転ローラーの外周に螺旋状に糊付条帯を設けた斜条糊付装置を設けて上、下原紙を重合接着し、更に下側原紙の両側部に沿うて直線状に糊付条線を塗布する糊付装置と、その両端部を上側原紙に折曲重合する胴折り糊付接着装置と、上記<省略>形糊付接着部の斜線中央部より左右に中割り2分する為の互に咬合する螺旋刃を有した上、下一対のロールよりなる斜面中割りカツターと、上記の上、下原紙の積層接着により形成した袋体をその進行方向に対し<省略>形接着部の鈎形線に沿うて間欠的に斜截断すべく回転ローラーの外周面軸方向に直線刃を取付けた斜面カツターを角度変更自由に装置して、左右対称形の三角袋を一度に2枚づゝ連続的に截断成形する様にした三角袋の製袋装置。

発明の詳細な説明

本発明は紙、合成樹脂フイルム等のロールに捲き取られた2枚の原紙を逐次解き出し乍ら上、下2段に移送し、上の原紙より幅広い下側の原紙の中間に、その進行方向に対し袋截断長に応じて前後が左右対称形の鈎形に屈折した斜めに<省略>形の糊付条線を順次断続的に塗布して上側を移送する原紙と積層糊着すると共に下側原紙の両端部の上面にはその進行方向に対して直線状に糊付条線を塗布して進行させ、此の下側原紙の両側縁を適宜の折畳器により内側に折曲げ、上側原紙の側部上面に重合接着して帯状袋体を形成し、此の袋体を上、下に咬合回転する螺旋刃を有した一対の斜面中割カツターにより上記<省略>形糊付接着部の斜線中央部に沿うて左右に2分し、次いで此の袋体をその進行方向に対し斜めに横切る様に斜設した回転ローラー外周面の直線刃により上記接着部の鈎形部に沿うて間欠的に斜めに截断して一度に左右対称形の三角袋を2枚づゝ連続的に製造し得る様にした三角袋の製袋方法と、此の方法を遂行する為に用いる自動製袋装置の発明であつて、以下本発明を図面に示す装置の一実施例に基いて説明する。

1は本発明の三角袋製袋装置全体であつて、2はその機体、3は巻軸3'に巻取られた紙、合成樹脂フイルム等の原紙、4は同じく巻軸4'に巻取られた紙、合成樹脂フイルム等の原紙で原紙3より広い紙幅を有し原紙3の両側縁上に折曲げ重合出来るようにしてある。5は原紙3の移送装置、6は同じく原紙4の移送装置、7及び8は原紙3及び4に一定間隔で印刷するロール印刷装置で各原紙の通過部に設けられている。9は原紙4の中間にその進行方向に対し斜め方向に間隙10を置いて<省略>形の糊付条線11を塗布する為の糊付装置で、回転ローラーの外周面に袋截断長に応じた長さを有し且つ中央に凹溝13を有して左右分離した糊付条帯14を螺旋状に捻回して取付けた糊付ローラー12と、此のローラーの糊付条帯14に糊を供給する糊補給ローラー15とからなつている。又此の糊付条帯14は糊付ローラー12に対する捻回取付状態を変更自由に取付ける事によつて所定の傾斜と長さを有する斜めの糊付条線11を得る様になつている。16は上、下の原紙3、4の合わせローラー17位置に於て原紙4の両側部の上面に沿うて直線状に糊付条線18を塗布する為の糊付装置で、下部にノズル19を設けた糊容器20の上方にガイドプーリー21を保持し、該プーリーと原紙4の両側線上に近接回転する様に設けたローラー軸22上のプーリー23とに渉り合成樹脂或はゴム等からなる弾性コード24を糊容器20、ノズル19を通じて原紙4面に添着する如く捲回すると共に該コードをハンドル25の旋回による螺子杆26とプーリー軸受27との螺合昇降運動によつて伸張、収縮自在に保持せしめてその弾性コードの伸張加減による断面形の変化で糊の添附量の調節と密栓を可能にしてあり、又原紙稿に応じて左右調節自在に設けるものである。28及び28'は原紙4の両側部を原紙3の両側縁上に折曲げ重合させる折畳器及び折曲げ誘導杆、29は原紙4の両側部の胴折り糊付接着装置30は移送原紙3、4の積層接着による帯状袋体31の移送装置、32は袋体31の上記<省略>形糊付接着部aの斜線部に沿うてその中央より左右に2分する斜面割りカツターで、上、下に互に咬合する突起した螺旋刃33とその根部に沿うて螺旋状の溝34とを夫々有した上、下一対のロール35、35'とよりなつており夫々第4図の矢印方向に回転するように設けられており、又此の上下一対の螺旋刃33、33を有したロール35、35は之等に伝動する一側のベベルギヤー部を中心として前後に回動変位可能に支持して螺旋刃33、33による直線截断の傾斜度合を加減出来る様になつている。36は上記斜面中割りカツター32と適当な間隔を置いて上記帯状袋体31を、その進行方向に対して斜めに横切る様に切断する斜面カツターで、上記<省略>形接着部aの鈎形線bに沿うて間欠的に斜截断すべく回転ローラー37の外周面軸方向に沿うて直線刃38を取付け、帯状袋体31の通過部の下側に配置した固定受刃39とにより截断するように斜設されており、又此の斜面カツター36は回転ローラー37に伝動するベベルギヤー40を中心として前、後に回動変位可能に保持してその傾斜の度合を自由に調節出来る様になつている。

4.1は上記斜面カツター36により帯状袋体31から切断された左右対称の2枚の三角袋42、42を順次送り出す回転胴で、その外周面にはエアーによる吸気孔兼送気孔43が間隔を置いて設けられ、回転によつて内周側に設備した吸気室44或は送気室45と連絡して前記袋体42、42を外周面に吸着し、移送コンベヤー46上に順次放出して移送する様にした構造である。

本発明は上記の様な構成で、第1図に示す様に2本の巻軸3'及び4'に巻かれた紙、合成樹脂フイルム等の原紙3及び該原紙より幅広い同様の原紙4は逐次解き出され夫々の移送装置5、6のローラーを経て印刷装置7、8に送り込まれ、夫々所定間隔で任意の表示が印刷ロールによつて印刷され、之等印刷装置7及び8を通過した原紙3及び4は合わせローラー部17に移送されるが、此の前段階に於て原紙4は糊付装置9を通過し、こゝに於て糊付ローラー12の外周面に螺旋状に取付けた糊付条帯14に糊が糊補給ローラー15を介して塗布されると共に糊付ローラー12が原紙4の進行速度に同調して接触回転するので、原紙4の中間には、その進行方向に対し凹溝13を有する糊付条帯14によつて袋截断長に応じた2条の斜線部とそれらの前後が対称形のL字形となる<省略>形糊付条線11が断続的に塗布され、合わせローラー17とローラー軸22によつて原紙3、4が糊着重合される。此の際左右に対称して設けた夫夫の糊付装置16に於けるローラー軸22上のプーリー23と上部のガイドプーリー21とに捲回した弾性コード24が糊容器20及びノズル19内を通じて原紙4の両側部上に接触した状態で回動する為に弾性コード24に添附された糊により原紙4の両側部に沿うて直線状に糊付条線18が塗布されて行く。

斯くして上、下に積層された原紙3、4は折畳器28に送り込まれ、原紙4の両側は内側に折曲されると共に糊付条線18、18を介して原紙3の両側緑上に重合接着されて帯状袋体31となり、此の袋体31は次いで斜面割りカツター32部を通過し、そのロール35外周面に螺旋状の溝34を介して形成した螺旋刃33が下側のロール35に於ける同様な螺旋刃33と咬合して夫々矢印向きに回転する為その螺旋刃33の回転により上記帯状袋体31は進行方向に対し斜めに糊付条線11で接着された接着部aの斜線部に沿いその中間より左右に2分cされ、次いで上下一対の数組の送りローラー間を経て斜面カツター36下に移送され、ここに於て袋体31の進行方向に対し斜め状に配置した回転ローラー37の外周面に於ける直線刃38が帯状袋体31と接触する下方に回転した時、その下側の固定受刃39とで<省略>形糊付接着部aの鈎形部bに沿うて間欠的に斜めに袋体31を切断dして左右対称形の三角袋42、42が2枚一度に順次截断成形され、之等三角袋42、42は回転胴41の外周面に設けた吸気孔兼送気孔43が吸気室44と連絡する上周面に於て回転胴41に吸着され、該回転胴の回転に連れてその吸気孔兼送気孔43が送気室45と連絡する事によつてエアーにより移送コンベヤー46上に順次放出され、所定数づゝ積層して搬送されて行くものである。

尚本発明に於て上、下の原紙が熱溶着可能な合成樹脂フイルムの場合は、糊付ローラー12による糊付の代りに、上、下原紙3、4の積層重合移送部に於て両原紙3、4の両側部の接着とその中間の糊付条線11に相当する部分の接着を夫々ロール式ヒーターにより熱接着する事もあり、ヒーター接着は極めて容易に可能である。

以上の様な構成を有する本発明に依ればロール状に巻かれた紙、或はセロフアン紙、合成樹脂フイルム等の2枚の原紙より左右対称形の三角袋を一度に2枚づゝ連続的に且つ自動的に製造し得るばかりでなく非常に高能率で大量生産が可能であり、コストを著しく低下する事が出来、又原紙の紙幅と原紙の進行方向に対する糊付条帯若しくはヒーターによる斜線条接着部の角度及び上下一対の螺旋刃による斜面中割りカツターの傾斜度を夫夫加減する事により大小種々の三角袋や角度の異なる変形袋を道具を代える事なしに同一装置で極めて簡単容易に製造し得る等の特徴を有するものである。

尚此の方法並に装置により得られた袋は三角形状に構成されているのでブドウ等の包装に際して紙袋に余分の空白が出来ず、確実に且つ安定のよい綺麗な包装が出来る利点がある。

図面の簡単な説明

第1図は本発明の方法を遂行する為に使用する装置全体の側面図、第2図は同装置による三角袋製造工程の概略を示す平面図、第3図は本装置の要部を示す平面図、第4図はその縦断側面図、第5図は本装置に於ける糊付装置部の縦断側面図、第6図は第5図の要部を示す平面図、第7図は本発明の方法並に装置により製造された三角袋の斜面図。

3…上側の原紙、4…下側の原紙、3'、4'…巻軸、9…斜条糊付装置、11…<省略>形糊付条線、12…糊付ローラー、14…糊付条帯、16…糊付装置、18…糊付条線、31…帯状袋体、32…斜面中割りカツター、33…螺旋刃、35、35'…上、下一対のロール、36…斜面カツター、37…回転ローラー、38…直線刃、42…三角袋、a…<省略>形接着部、b…鈎形線、c…中割り切断部、d…帯状袋体31の袋長切断部。

<56>引用文献

実公 昭36-22779

第1図

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第2図

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第3図

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第4図

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第5図

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第6図

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第7図

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特許公報

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